世の中には、いろんな〈うそ〉があります。自分の立場をごまかす為につく〈うそ〉もあれば、他人のことを思ってつく〈うそ〉もあります。そんな沢山の〈うそ〉の中から、今日はある奥さんの昔話をしましょう。

 

 話は、三十年くらい前のこと。この頃、この奥さんには三人の子どもがあり、まだ小学生でした。従業員の横領がきっかけで、家業の建設会社が倒産してしまったのです。それからというもの、その日の夕食代にも困るような生活、時には親子そろって夕食を抜くことさえあり、たった二百円の給食費も払えず、子どもたちは「クラスのみんなに気がねで、給食を食べられん」と泣いてすがりつく毎日でした。

 

 目の前に並べられたパンやミルクやおかずに手を伸ばそうとすると、まわりの子に「給食費も払わんくせに、よお食べられるのお」といやみを言われ、給食をとうとう食べないまま、帰ってきては泣きじゃくるのです。家に帰ってきても、もちろん食べるものは何もありません。お母さんは「何とか、気がねしないで、この子どもたちに給食を食べさせてやりたい」と、思い悩みました。その時、一つの妙案が浮かびました。それは、あらかじめ学校側の了解をとり、給食費を納める日には、袋の中に「よろしくお願いします。」と書いた紙切れを入れ、のり付けをして子どもに持たせる事でした。子どもたちはそれを受け取ると明るい笑顔で学校へ出かけたのです。もちろん子どもたちは、その中に入っているのは給食費のお金だと信じていました。「いずれ払えるようになるまで」という母親のせつない願いを学校も快く受け入れて、子どもたちにはずっと内緒にしてくれました。

 

 きっと、お母さんは悩みに悩んだ末、子どもたちに〈うそ〉をついたのでしょう。私たちはよく、「うそも方便」という言葉を使いますが、まさしく、このお母さんのついた〈うそ〉こそ、その方便だったといえます。

 

 今では、三人の子どもたちも立派に成長し、あの時の苦労が笑って話せる家庭になったということです。