タバコを吸う方には、肩身の狭い世の中になってきました。昔のテレビ番組には、会議の時は灰皿が山のようになるシーンがよく出てきます。そういえば、あの頃は「人前でタバコを吸うのって普通だったな」と、変に懐かしがっています。今では周りに迷惑をかけない電子タバコが登場していますが、電子タバコも吸う人の健康被害が、近頃では指摘されています。

 

 かくいう私も50歳くらいまでは、けっこうなヘビースモーカーでした。タバコを吸う人達からは、「よく止められましたね」と、変に感心されています。では、タバコをやめたきっかけをお話ししましょう。

 

 それは今から25年くらい前、6月の終わりのことでした。1人の友人がお寺にやって来て、「今、病院の帰りだ。人間ドックの検査結果を聞いて来た」と言ったのです。なんだか元気がありません。「お医者が言うにはな、タバコを止めろだと。それも今すぐ。それでないと命の保証はないと脅しやがるんだ」。彼がヘビースモーカーであることは、わたしは十分に知っています。「それで止められるのかい」とちょっと意地悪な質問をすると、「うん、止めようと思う、なんといっても命は惜しいからな」といって「そこで相談なんだが」とニヤッと笑ったのです。「なんだろう」と私が首を傾げると「お前も俺と一緒に止めてくれないかと思って立ち寄ったんだ」というではありませんか。「俺も?」という私に「お前、坊さんだろう。坊さんは人の悩みを救うのが仕事だろう。だったら絶対つきあってくれよ」、こう言われて私と友人の同行二人の禁煙の旅が始まったのです。

 

 檀家の人は「お上人、それはいいことですね。人を救って自分も救われる一石二鳥じゃないですか」といいます。実は、この話を私があちこちで言いふらしたのは、「なんとかして、これを守り続けたい」という思いがあったからです。「偉そうなことをいったけど、もう誓いを破ったんですか」と笑われないためには、自分の意志を強くする他ありません。

 

 当時、ある会社では「禁煙を誓えば3万円、破れば倍返し」とスローガンを掲げ、 社員の健康増進のため禁煙運動をしたそうです。人事部が発行する「禁煙宣言」用紙に本人とその協力者が署名、捺印して届ければ、福利厚生費として会社から3万円が支給されたのだとか。だけど「破れば倍返し」とあるように、「愛の密告」という制度もあり、違反が見つかれば倍の6万円を会社に返納しなければならないのだそうです。しかも、これを会社に報告した人は、「同僚社員の健康増進に貢献した」として1万円の報奨金が支給されるのだとか。最初は面白い制度だなと思って聞いていた私も「密告」という言葉には、ちょっと嫌気を感じました。それでは会社の中で、お互いが疑心暗鬼になるのではないでしょうか。

 

 体の管理も大切だけれど、心の管理はもっと大変ではないかと考えている私なのです。