生き物が、生きているが故に起こす、さまざまな現象を生理的現象といいます。それは呼吸をすること、食べ物を食べ消化すること、血液の循環に体温の調節など、数えればきりがありませんが、なんといっても忘れられないのは排泄作用でしょう。もしも、この作用が止まったなら、とんでもない事になります。

 

 檀家のお婆ちゃんが、「ウンコ、シッコといえば、誰もが顔をしかめるけれど、これが出なくなったら大変ですよ」と話しました。確かに、その通りだと思います。「だから、ウンコ、シッコは健康のバロメーター。そう思って感謝の手を合わすべきですよ」というこのお婆ちゃん。

 

 このお家のトイレには、烏芻沙摩明王という神様のお札が貼られているのです。烏芻沙摩明王といっても、現代の人々には、ほとんど馴染みのない名前かもしれません。だけど、これはトイレの神様で、仏教と共にやってきたインドの神さまです。「この神さまは、汚れを転じて清らかにして下さるんですよ」とお婆ちゃんの話は続きます。「私だって、出したものを見て綺麗なものとは思いませんよ。でも昔は、肥しといって、出したものが、みんな次のいのちを育ててくれていたんですから」と懐かしそうにいうのです。そんな記憶は、私にもあります。お婆ちゃんのお説に随えば、ウンコの「ウン」は、人生の「運」にも通じるのだとか。「だからお通じともいうでしょう」というダジャレは置くとしても、耳を傾ける価値はありそうです。

 

「実は、これはご近所の出来事なんですがね」とお婆ちゃんは、とっておきの話といわんばかりに話出しました。「ある朝、玄関でドアをドンドン叩く音がするので、出てみたら、なんと隣の幼稚園の女の子だったそうですよ。その子がお尻をモジモジさせながら、いった言葉が、『おばちゃん、おトイレ貸して』というものだったとか。すべてを察した奥さんが、すぐにOKすると、駆け込むようにして入って来た女の子が、やがてスッキリした顔で出てきて『ありがとう、おばちゃん。うちのおトイレ、お兄ちゃんが入ってて、満員だったものだから』といったんですって」。

 

 それからは今まで付き合いのなかったお隣同士が、今はとっても仲良くなっているんだとか。「まさに運が開ける話だとは思いませんか」というお婆ちゃん。私は、思わず、ウン、ウンとうなずいていました。それというのも、私はお婆ちゃんの家のトイレを拝借することが、結構多いからなのです。