お経をあげるのは、死んだ人のためと思っている人が多いようです。そこで今日は、生きた人間にも、お経の功徳があるという話をしましょう。つい先日のこと、ご回向に伺った檀家さんで「ご住職、お経を聞くのは、精神衛生上、とてもいいそうですね」という話が出ました。「そんなことは当たり前」と思ったものの「どうしてですか」と尋ねると「この間、テレビでお医者さんが、お経を聞いている人の脳波を計ったら、とてもゆるやかな波長が測定されたと話していました」と答えました。

 

 最近は、心の問題も、科学的分析で説明するほうが、納得がいくのかもしれません。私にも、こんな体験があります。あるお家で、赤ん坊が眠っいる横で、お経をあげた時のことです。お経の声と木魚の音で、目が覚めないかとハラハラしていたら、最後までグッスリと眠ったまま。「よかった」と胸をなでおろしたら、そこの若奥さんが、「赤ん坊は、お腹の中にいる間、母親の心臓の音を聞いて育つといいますから、木魚の音が、それに似ているのかもしれませんね」と話してくれ、「ナルホド」と思ったものです。きっとお経には、私たちの心を穏やかにしてくれるリズムがあるのでしょう。

 

 昔、インドに戦争の大好きな王様がいました。王様は、いつも象の背に鞍をつけ、その上に乗り、指揮をとります。戦車のように、敵の中に攻め込んでいくのです。その象の破壊力は、すさまじいもの。なにもかもペチャンコです。だから、王様は、この象が大の自慢でした。
ところが、新しく象が住む小屋が出来てから、そこに移された象は、なんだか、今までと様子が違います。すっかりおとなしくなってしまいました。不思議に思った王様は、一日中、小屋にいて原因を調べようとしました。すると、朝と夕にお経が聞こえてくるのです。そして象は安心したように、細い目を、いっそう細くしています。「これだったのか」と王様は気づきました。でも王様は不思議と腹が立ちません。

 

 お経の中には、「信ぜざる者には、これを毛穴より入らしめよ」という言葉があります。象も王様も、知らず知らずのうちに、仏さまの世界に導かれ、心安らかになっていたのでしょう。あなたにも、そんなお経の功徳を味わってもらいたいものです。