今日は、アメリカの生物学者が行った、ある実験報告からお話しましょう。
アイオワ州立大学のディットマー博士は、研究室に広さ30cm四方、深さ56cmの木箱を用意し、中に砂をいっぱい入れました。そしてその中央にライ麦の苗を一本植えたのです。
実験の目的は、ほとんど栄養のない砂の中で、ライ麦の苗が、成長できるかどうかを観察することでした。だから、与えるのは水だけ。博士は4ヶ月の間、毎日水だけを与えて、その成長ぶりを観察したのでした。当然のことながら、その苗は成長がおそく、色つやも悪く、ひょろひょろとした姿でしか育ちません。それでも4ヶ月の間、枯れることもなく生きのびていたのです。
そして4ヶ月が過ぎたある日、博士と研究室の仲間たちは、木箱を壊して砂をふるい落とし、地下の根の成長ぶりを観察しました。地上で見るライ麦はひょろひょろしていたけれど、その根は箱の中いっぱいに広がっていました。博士たちは一同に、「おお」という感動の声をあげました。ライ麦は、栄養分のほとんどない砂の中で、カリウムや窒素、そして水分を吸収するために、必死の思いで根を張りつづけていたのです。そこで博士たちはデータをとるために、太い根はもちろんのこと、その先に伸びている根毛にいたるまでも、その長さを測りました。その長さの総計は、なんと10200㎞にもなったのです。
貧弱だと思われたライ麦が、小さな箱の中で、地球の4分の1もの長さにわたって、いのちの根を張りめぐらしていました。すごい生命力だとは思いませんか。
ところで、このライ麦の根にあたるのが、私たち人間の場合、血管です。血管は、心臓を起点として、大動脈、動脈、毛細血管と張り巡らされ、さらに末梢静脈、静脈、大静脈を経て、血を心臓に送り還します。その長さの総計はというと、成人の場合、驚くなかれ、9万㎞の長さにまでもなるのだそうです。これは地球を2周と4分の1回った距離になります。この小さな身体の中には、こんなにも長いいのちのパイプが繋がれていたのです。そしていのちのパイプは血管だけではなく、ご先祖というルーツによっても繋がっているのではないかと、私は考えました。
そんな時、ふと日蓮聖人の「花は根に返り、真味は土にとどまる」というお言葉を思い出したのです。日蓮聖人という偉大な宗教家も、ご先祖や多くの人々との出会い、張りめぐらされた縁という根によって、花開いたのだと、私に語りかけて下さっている気がしてならない今の私なのです。