2月といえば、節分の豆まきが有名です。豆まきには、決まって、怖いオニが登場します。そこで今回は、オニさんが主人公のお話をしたいと思います。
日頃いばったり、強がっている人が泣きそうな顔をすると「鬼の目にも涙」なんてことを言います。結婚式で娘さんの花嫁姿に感激しているお父さんの顔などは、その代表的な例、ごつい拳で目のあたりをぬぐう姿を見ると「あの人も本当はやさしい、さみしがりやなんだな」と、こちらまで胸がジーンときます。いつもはオニのように怖い人でも、案外、内側はその反対というのが人間の心情のようです。
童話の「泣いた赤オニ」の話は、そんな私たちの心の動きを、ほのぼのと描き出しています。人間と仲良くなりたい赤オニ、でも、恐がって近づいてくれない人間たち。ある日、山に住む赤オニは、こんな立札を家の前に立てました。
心ノヤサシイオニノ家デス。ドナタデモ、オイデ下サイ。オイシイお菓子ガゴザイマス。オ茶モ沸カシテゴザイマス。
でも折角のアイデアも村人には通じません。赤オニは、すっかりしょぼくれ、人間不信に陥ってしまいました。そこへ隣の山の青オニがやってきて、悩みを聞き、自分が一肌脱ごうと申し出ました。赤オニがデリケートなオニなら、青オニは男らしいオニ。「俺が里に降りて一暴れするから、君は後からやってきて、俺をこらしめろ。そうすれば君は村の救い主。人間どもは君を信頼するだろう」と言うと、金棒を手に山を下っていきました。
そしてこの作戦が見事に成功したのです。ヒーローになった赤オニの家には、毎日のように村人が遊びにくるようになりました。でも彼は青オニの事が心配でなりません。そこで、ある日、隣の山に出かけると、家はもぬけの殻。釘が打ちつけてあります。そしてその戸口に、こう書いた貼り紙がありました。
赤オニクン、イツマデモ人間ト幸セニ。俺ハ旅ニデルヨ。君ト俺ガ友達ト分カッタラ、人間ドモハ、君ヲ疑ウダロウ。俺ノ事ハ心配スルナ。
これを読んだ赤オニの目に涙が溢れました。そして真珠のような大粒の玉となってこぼれ落ちたのです。この話が「鬼の目にも涙」の喩えの起こりか、どうか知りません。でも、こんな心の眼を洗ってくれるような涙はいつまでも思い出に残るものです。